とりあえず、拓海のお父さんの顔を確かめよう。

それから・・・。

ゆっくりと実家の門の前に近づいていく。

表札の下にあるチャイムに手を伸ばした。

だけど、なかなか押す勇気が出ない。

何度も深呼吸する。

拓海の為なんだ。

きっとこれは神様がくれたまたとないチャンス。

思い切ってチャイムを押した。

しばらく何も反応がなくて、もう一度チャイムを押そうとしたその時、インターフォンから声が聞こえた。

「はい。」

無愛想で無機質な低音。

なんとなく拓海の声と重なる。

ゆっくりと息を吐いて言った。

「こんな夜分にすみません。拓海くんと同じ大学の松浦と申します。」

拓海のお父さんからはしばらく何の応答もなかった。

あきれて、そのまま部屋に引っ込んだんだろうか。

その時、門の奥の玄関の扉が開く音が聞こえた。

玄関を見ると、背の高い色白の細い男性が門の方に歩いてくるのが見えた。

お父さんだ。

沈んだ目は拓海と同じ色をしていた。

お酒を飲んでいたのか、頬はほんのりと赤い。

「こんばんわ。急にすみません。拓海くんのお父さんですか?」

拓海のお父さんは、何も言わず、いぶかしげにコクンと頷いた。

「何の用かな。」

思いがけず優しい声だった。

「あの、ちょっと拓海くんのことでお話したいことがあって。」

まだ疑っている顔をしていたので、自分の自己紹介を簡単にして、拓海との関係を話した。

ようやく安心したのか、表情がやわらかくなったお父さんは、

「ま、ここじゃなんだから少し入りなさい。」

と言って門を開けてくれた。