『寒いのは苦手だ』

どの季節が一番好きかと尋ねられたら、俺は迷わずこう言う事にしている。

「冬意外。」

別にあとの季節はどうでも良いのだ。

寒くなければ良い。吐く息が白くなければ良い。

そんな捻くれた俺が、どうして寒さの真っ盛りの『初詣』などに行けようか。

と、思っていたのだ。



と、思っていたのに。
(何故、こんなところにいるのだろうか?)
そう思っていても声には出さない。
その代わりに、横目でちらりと相方をみる。
もこもことした白いジャッケットを着、普段は長く伸ばした真っ直ぐな髪を帽子の中に押し込んで、寒いのにジーンズのミニスカートにブーツといった姿の彼女は、参詣する前方の人々をほーっと見ている。
彼女との付き合いは3ヶ月前になる。始まりはとてもシンプルで、大学のサークル活動で知り合い、友達という過程を通して今に至る・・・それだけだ。
交際は順調。しかし、最近、何か物足りないような気がしないでもない。
「どーかした?」
ふと気が付くと、彼女は少し先に進んでおり、心配そうな顔をこちらに向けていた。
手袋もつけていない両手を擦り合わせながら、息を吹きかけている。手袋くらいしろよ、と常々思うのだが、彼女が手袋を持っている姿をこの3ヶ月間でみた記憶はない。
「いや、なんでもない」
そう返して、距離を詰めていく。初詣で賑わう人の数は多く、普段はやらない神社もこの時ばかりはお祭り騒ぎだ。
「それより、危ないから・・・」
「きゃっ」
こっちに来い、と呼びかけようとしたが刻既に遅く、お参りを済ませ出店へと流れていく人にぶつかり、彼女は持っていた鞄を落としてしまった。
ほら言わんこっちゃない、と内心呟きつつ彼女の荷物を拾おうと身体を曲げる。

その時だ。

目に留まったのは、一対の黒い手袋。