「エマ。せっかく出かけるのだ。メイド服ではなく私服に着替えておけよ」

「え、私は・・・」

「アドルフもだ。畏まった格好はやめだ」

「え・・・、私もですか?」




俺はもう、魔王だと威張ることはやめにしたのだ。
別に、皆を従えたいわけではない。

ただ以前の俺には、そうすることでしか皆を引き止められないのだと思っていた。
自分がもっているものなど、なにもないと思っていたから。


だが今は違う。
この俺を、この俺として慕ってくれる者たちがいると知った。



ならば、それでいいのだ。





「お前たちは、俺の家来である前に、俺の家族のようなものだからな」





これまでの魔王たちが手にできなかったものを俺は手にした。
凶悪だった初代魔王は、いったい何を手にしたかったのだろう。


その魔王に飲み込まれてしまったこれまでの魂はどんな想いを抱いていたのだろう。





今ではもう知ることなどできない。
この俺が残ったことは、運命なのかそれとも他のなにかなのか。



それも、わかることはない。