愛しの魔王サマ



さも当たり前のように聞き返された言葉に、目を丸くさせた。
そんな事を尋ねられたのはこれまでの魔王さまの中でも、初めてだったのだ。

私の事を気にかける魔王さまなど、これまでに誰もいなかった。




「私の名は、・・・ありません。皆、私の事は側近と呼びます」

「名がない?・・・そっきんというのは、名ではないのか?」

「側近というのは、魔王さまの側に仕える者という意味の、肩書のようなもので・・・」




魔王さま、マオさまはこれまでのどの魔王とも違った。
どこか不思議な雰囲気をもたれた方だった。




「なんだ、名がなければ呼べないではないか。・・・ならば、アドルフだ。お前の名は、今日からアドルフだ。いいな」

「え・・・、アドルフ」

「なんだ、文句でもあるのか?」

「い、いえ。そんな・・・」




初めて。
初めて自分の存在を、魔王の側近ではなく、私個人の存在を認められたような。



その時、私は救われてしまったのです。