不満を持った者たちの標的は、恐怖の大将である魔王さまへではなく、その側に仕えている私に向けられることの方が多かった。
私にならなんといっても恐れることはないとわかっていたからだろう。





「魔王さま、魔物たちが酷く怯えております。どうか、ご慈悲を・・・」

「下らんことを言うな。言う事を聞かせるにはちょうどいいだろう」

「ですが!」

「くどい!貴様の言うことなど、聞くか。勘違いするなよ。お前はただ、お前が側近にしろというからおいてやっているだけだ。お前など、本当は別にいなくてもよいのだ」





そんな事は、わかっていた。
魔王さまは、私の事を一度も見てくださったことなどない。

魔王さまに、付けてもらいたいと思っていた名も、言い出せず、私はただ側近と呼ばれるだけの日々。
結局、自分で名乗る名も欲しくはなく、名無しのままだ。


魔王さまに関しては、それすらも呼ばれたことはなく。
それだけの存在なのだと。

名無しでちょうどいいではないか。
私の存在など、その程度で。



その時、そう決めた。