宛がわれた注射器が差し込まれる寸前、自分の意識を保つため思い切り唇を噛み切り痛みに自由を取り戻した身体でその注射器を掴み上げた。




「ま、マオさま・・・」




同時に首を締め上げていた手からも力を抜くと、咳き込みながらアドルフが唖然とした顔を見せる。
俺は奪い取った注射器を床に叩きつけるとアドルフを睨みつけた。




「これは、どういうことだ」





発作のような状態が収まっていくのを感じながらアドルフに追及する。
冷静に取り出された注射器。
そしてそれは、あらかじめ用意されたもののようだった。


まるで、今の状況を予期していたかのように。




アドルフは、なにを隠している。




「お前は、知っているのか。この発作がなんなのか。あの注射器はなんだ。中身は何が入っている」

「そ、それは・・・」

「・・・そう言えば、時々、記憶が飛ぶことがあった・・・。まさか、それはお前のせいだったのか!?」





浮かぶ疑念は一つ上がればきりがなく溢れだす。
なにかを隠していることは知っていた。

だからこそ、俺はアドルフに疑念を抱いていたこともあった。
それでも、それがなんなのか俺にはわからなかったから、いつかわかる時が来ればと思っていたが・・・。