「エマ=アントナと申します」



淡々とした調子でそう言ったその女。
表情という物が欠落しているのか無表情だ。



「・・・どういうことだ、アドルフ」

「マオさまの身の回りの世話ですが、チチとトトだけでは手が足りなくなってまいりましたので。新しく召使いを連れてまいりました」

「チチとトトで十分だ」

「マオさまは、私のプレゼントをお気に召さないと申すのですか・・・?」



口元に手を当て目を伏せ、演技たっぷりに泣き真似をする。




「そうではない!お前も知ってるだろう!俺は、心の許せるものしか側に置きたくない!」




それは、俺の弱さであり改善すべきところなのかもしれない。
それでも、簡単に他人を許容できるほど心は広く持ち合わせていないのだ。


それは、我が魔王の定めゆえか。




「そうでございますか。エマ。残念ですが、あなたは不要なようです」

「はい、かしこまりました」




冷めた声でアドルフが継げると、エマは相変わらずの無表情でうなずく。
そしてポケットの中から取り出したナイフを左手首に添わせた。