「成瀬、おまえ帰りは柴崎を送って行ってやってくれないか?」

「え? オレがですか?」

 成瀬が驚いているが、それ以上に驚いているのは私の方だ。

「ちょ、何を言い出し――」
 てんだ、ばっかじゃね? と素が出そうになってクッと息を飲み込み言葉を改める。

「わ、私は一人帰るから、送ってもらわなくて大丈夫。本当に山際君ってば、何を考えているのか、ねえ。成瀬君にも迷惑でしょ」

 顔が引きつっているがわかるが、それでもなんとか笑顔を作れただけ褒めて欲しい。

 気が利かない山際は、(ここは俺に任せろ)的な目配せをしてきている。

 きっと彼氏もここしばらくいない私を案じての行為だろうが、一言言いたい。

(ま――――ったく的外れ!! お節介やめろ――!)

 リアルな男なんか、これっぽっちも求めていない!
 どうせ世話する気なら戦国武将連れてこい! もしくは異国の王子だ!
 私の一押しはストイックな大人の魅力の片倉小十郎と優しくて木訥キャラのリゼル王子だ!!

 ギリギリと外聞を気にせず山際を睨み付けたが、鈍い彼はグッと親指を立てた。

(わかってな――い!)

 しかも成瀬は「わかりました。ご命令とあればお送りします」なんて畏まっている。

「あのね、そんなのパワハラだから。送らなくていいからね」

「いえ、女性一人で帰るのは危ないですよね。送りますよ」

(いやいや、一人にさせてよ。今まで生きてきて襲われたことないから、心配いらない。というか迷惑!)

 しかも受付女子がめちゃくちゃ睨んでるからね!

 あの獰猛にも見える瞳は、帰り際に鳶が油揚げを攫う素早さで成瀬を捕獲する気満々だ。

 よし、大丈夫だ、と心でつぶやく。

 あの女子のギラギラした目は、確実に獲物を捕獲するだろう。