「柴崎先輩って、いつも優しくて上品で、さぞかしモテるんでしょうね」
「そんなお世辞はいりませんよ。私なんてずっと彼氏もいませんから」
にこやかに返事をすれば、すかさず山際が割り込む。
「もう、柴崎はさ、こんだけ可愛いのに絶対に男からの誘いは受けてくれないの。まあ人事課の花だからそれもいいんだけど、前の彼氏と別れてからもう長いだろ? そろそろ彼氏作ったらどうだ?」
(うるさいわ、ほっといてよ)
去年、学生時代からの彼女と結婚したばかりの山際は、この後のろけ話に入るつもりだろう。
いちいち人様の恋愛事情に踏み込んで来るなと言いたいが、外面全開でにっこりと微笑んで、何度聞かされたかわからない彼の「嫁との出会い~幸せな今日まで」ののろけ話を聞き流す。
(しかしいつ抜けるかな……。早く帰ってイベント進めないと。ああ、帰りたい)
心はスマホに飛んでいる。
今回開催中のイベントは、雨の中、事故で記憶を失った王子との切ないすれ違いがテーマだ。
これを全部クリアすれば特別なドレスが手に入るのだが、イベントの終了が今日の十一時までだ。
ガンガン課金をすればイベントクリアなど簡単なことなのだが、それでは面白くない。
いかに最小限の課金で、どれだけやれるか。そこが楽しいのだ。
だからイベントなどはギリギリまで粘る。
(まあ九時過ぎには終わるかな。それから帰ってクリアできそうだな)
段取りを整えていると、同期の山際が成瀬にささやいた。

