(まあ、考えても仕方ないことだね)

 ただ今だけはこの温もりでまどろむことを許して欲しい。

 スマホの中の王子様には温もりがないから、少しだけこのままでいさせて。

 成瀬の胸に顔を埋めてゆるりと瞼を閉じる。

 規則的に上下する胸から穏やかな鼓動が聞こえる。


 これ以上……

 これ以上一緒にいたら……。


 少しだけ怖くなる。

 決してもう二度と私の心は誰にも開かないと決めているし、それはとても固く閉ざした想いだ。

 簡単に開くわけなどないけれど、少しだけ怖かった。

「これ以上、私の中に踏み込んで来るんじゃないのよ」

 密やかに成瀬の胸にささやき、私はまたまどろみの中に落ちていく。

「……でも、あんたの腕は好き」

 その一言をついでにささやいた私は、眠りの波に飲み込まれた。

 成瀬の温もりと腕に捕らわれた私の、心の中の攻防は、結局決着をつけることができないままで、けれどこの曖昧な攻防も、それほど悪くはないかも知れないなんて考えながら、何も考えずに眠りに落ちた。