「ちょっと先輩のとこに行ってきます。失礼します」

 コップを持って成瀬は立ち上がり私たちの方へ来る。

 今日の花である受付嬢を占領しないように気を遣っているだろう。

(できる男だ)

 若いのに感心してしまう。

 彼が去った受付嬢から途端にさっきまで涙目でお通夜モードだった男性社員の顔が一気にパティーピーポーに変わっている。

「お邪魔します。入れていただいていいですか?」

 明るく私たちの側に座る成瀬のせいで、受付嬢の表情はすっかりお葬式だが、にやける男性社員はそのことに気がつかないで、彼女たちにせっせと話しかけている。

「おう、成瀬、もう仕事には慣れてきたか?」

 受付嬢の睨む視線に気がつかないで気軽に問いかけたのは、同じ人事課の山際博也(やまぎわひろや)。
 私の同期で同じ二十七歳だ。

「はい、山際さん。皆さんのおかげでかなり慣れてきました。でも今まで外回りしていたので、ずっと中にいるのがそろそろ苦痛になってきました」

 クスッと冗談っぽく笑う笑顔が可愛らしい。

 まだ少し少年らしさを残しているようにも思えるのは、自分が年を食ったからだろうか。

 人から見れば二十七歳なんてまだまだ若いだろうけれど、私の内面はもうすでに初老の気分だ。それもすべては二年前の出来事のせいで……。

「柴崎先輩、飲んでますか?」

 手近にあるビール瓶を手に、私の顔をのぞき込んできた成瀬に、笑顔を浮かべる。

「ええ、結構飲んでますよ。成瀬君は飲んでますか? 遠慮しないでね」

 答えると、まだ半分ビールの残るコップにビールを注いでくれた。