週末、人事課だけでなく受付の女子二人も加わり、成瀬春人の歓迎会が開かれた。

 お店は昭和課長のおすすめ「うまい魚が食えるんだよ~」とありがたくもない推薦により、これまた昭和の香りが濃厚な個人経営の居酒屋に決定していた。

「今時こんな店?」

「ちょっと古くさいよね~」

 受付の美人たちは不服のようだが、気に入らないのならば、帰ってもらって結構ですよと私は心の中で呟く。

 男性陣は彼女たちの参加を喜んでいるけれど、私にとってはどうでもいいこと。だから気に入らないのなら、帰ってくれてもなんの支障もないのだ。

 それでも彼女たちのお目当ては、おいしい魚でもお酒でもなく、成瀬春人なのだから、引き下がるわけもない。

「あ、成瀬さぁ~ん! 隣に座ってもいいですかぁ?」

「あ、ミキちゃん、あたしも隣に行きたいのにぃ」

 甘い声は色とりどりのキャンディのようで、辺りに広がり場が華やぐ。

「いいねえ、若い綺麗どころが入ってくれると」

 なんて課長は鼻の下を伸ばしているが、独身男性は新入りに花形女子を奪われちょっと涙目だ。


 成瀬春人という男は、隙のない人に見える。

 まだ数日しか過ぎていないけれど、与えられた仕事は要領よくこなし、少しでも不明なところがあれば、すぐに聞いてきてくれる。

 えてして男は女に教えてもらうなんて、と変なプライドがどこかにあって、わかならいながら自分でなんとかしようとして後で面倒なことになったりするものだが、成瀬はその点、とても優秀だった。

 しかも常に周囲への気配りも忘れず、さすが営業で優秀と評されただけある。どんな事情があって中途半端な転勤になったのかはわからないが、今のところ、彼自身に問題はない。