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課長の前で思わず顔が素に戻りそうになり、急いで笑顔を取り繕う。
「成瀬君の歓迎会ですか?」
「そう、彼には早く慣れてもらいたいからね。そのためにはやっぱり酒でしょう。これが一番、飲みニケーションでしょ」
くいっと酒を飲むようなジェスチャーをする課長に、一瞬だけ顔が素に戻る。
(飲みニケーションとかいつの時代の言葉!? 今時はお酒嫌いも多いのに、この人は昭和の頑固親父のままで思考停止してるんだから!)
直属の上司である課長は、ただ今五十三歳のおやじ盛り。
頭は涼しくなりすでに数年を経過しているのに、まだ抵抗を諦めていない。お酒好きのせいでお腹は見事なメタボ。そして隙あらば飲み会を開こうとするから始末に悪い。
お酒を飲むなら家で一人で飲みたい。ワイワイ飲むのはもう面倒なのだ。
それに今は王子とのイベント期間中なのだ。
残業だって迷惑なのに、飲み会などもってのほか。けれど歓迎会と言われてしまえば仕方がない。
心で盛大な溜息をこぼしながら、いつもの愛想笑いを浮かべ、私はまたいつものように頭を下げる。
「わかりました。お店、手配しておきますね」
「人数確認もよろ~」
(よろ~、じゃねえよ!)
思い切り突っ込めたらどれだけ心地いいことか。
(私が一緒にいたいのは、おやじじゃなくて王子だよ!)
たった一文字違いで大きな違いだ。
半分泣きたい気分で課長のデスクを後にした。

