出社した時、成瀬はすでにデスクに座りパソコンに向かっていた。

「あ、先輩おはようございます」

 爽やかに挨拶をしてきた成瀬に、ほんの一瞬だけ息を飲み、すぐに平常通り「おはよございます」といつもの挨拶を返す。

 成瀬はすぐにまたパソコンに向き合い、もうこちらへの興味を失ったよう。

 ホッとすると同時に、とても小さな痛みがチクリと胸を刺す。


 一緒のベッドで寝たことも、付き合いたいとか言ったことも、成瀬はすっかり綺麗に忘れ去っているようだ。


(これだから……三次元は信用ならないのよ)

 スマホの中の王子様はみんな誠実だ。

 君を悲しませたくないなんて言って、どんな苦難でも越えてきてくれるし、愛情だってどれくらいあるのかバロメーターで表示されるから、わかりやすい。

 戦国武将だって、時には命までかけて窮地を救ってくれたり、だれもが誠実で男らしい。

 三次元のリアルな男など、彼らの足下にも及ばない。

(今日は課金して気になっているガチャを引いちゃおうかな。でもあさってから合戦イベントが始まるから、どうせならその時に課金した方がいいよね)

 そんなことを考えながらいつもの業務をこなしていた私を、課長が呼びつけた。