一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 思わぬ言葉のパンチに、クッとまた喉で息が詰まる。

 元の場所に戻り、食事を再開した成瀬の横顔に溜息を零しながら、しばらく彼を見つめる。

(こういう顔のいい男なら、相手がどう受け取るかって考えてから発言してほしいわ、全く)

 マグカップの水をシンクに流してから、戻って成瀬の向かいに座りフォークを手に取る。

 成瀬の食べ方は以外にも上品だ。
 口に運び込むスピードや量は適切で、とてもスマートに感じる。

(なんだかソツがなさ過ぎて、嫌みにさえ思えちゃう)

 こんな上等な男が、おやじ化している年上の喪女を選ぶ訳がない。
 どう考えても、付き合いたいとか気に入ったなどと言ってくるのは、からかっているとしか思えない。


 ふと窓の外を見遣れば、また雨が降り始めている。

 今年の梅雨は、その名に恥じないほど雨続きだ。


 私は改めて成瀬に視線を戻し、一つ咳払いをした。

「成瀬はさ、軽い気持ちで年上女をからかっているつもりだろうけどね、こういのは誤解を招くだけだから自重しなさい。自分でもわかっているとは思うけど、あんたは相当見栄えがいいんだから、そうやって軽々しいことを言わない方がいいよ。トラブルの元だよ」

 冷静に告げた私に、成瀬は何度か瞬きをして、それからフッと笑った。

 とても、魅力的な笑顔で。

「な、なに? なんで笑うの?」

 わずかにたじろいだ私を見つめながら、成瀬は手にしていたフォークをゆっくりと置く。それは、まるで今から何か特別なことを始めるような、少し芝居がかった置き方だった。

 ほんの少し、トクンと小さく心臓が音を立てたのを自覚して、思わずフォークを持ったまま手を強く握りしめた。