一寸の喪女にも五分の愛嬌を

「先輩、大丈夫ですか!?」

 慌てた成瀬が私の隣に座り、背中を優しく撫でてくれる。

「水、持ってきます」

 すぐにキッチンへ行き、マグカップになみなみと水を汲んで戻り手渡してくれる。

 慌てて水を入れたせいで零したのか跳ねたのか、成瀬の手が濡れていた。 

(悪い奴ではないよね……)

 渡された水を飲みながら、私は成瀬の濡れた手を見ていた。

 大きくてがっしりとしている手は、何かスポーツをしていたのだろうと思われる。
 後輩とはいえ、成瀬はやはり男なのだと、強く印象づける男らしさがその手に表れている。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……」

 ゆっくりと背中を撫で下ろす成瀬の手の感触が、やけにリアルに感じられる。

 この大きな手が、今、私の背中に触れているだと考えてしまった途端、小さく心臓が音をたてる。

「……もう、大丈夫だから」

 私は成瀬の手から逃れるように立ち上がり、手にしているマグカップをキッチンに戻しに行く。


 成瀬から逃げたんじゃないと、心の中で呟きながら。

 
 カップに残った水を流しながら、成瀬を睨み付け言う。

「あんたは全くもう……変な言い方しないでよ。むせちゃったじゃないの」

 文句を言う私に、成瀬は「事実ですから」としれっと言い放つ。

 しかも「だから俺にとっては何よりも特別な日ですよ」なんて続けた。