けれどすぐに表情を引き締め、成瀬は私の手を握りしめる。

「俺はもう……薫さんを逃がしませんよ、覚悟してください。こんなに可愛くて愛しい人を、逃がすことなどないですから」


 ドクンと一つ鼓動が弾ける。


 真面目な瞳で見つめられてしまえば、私の心はあっという間に乱されてしまう。

 きっと頬が赤く染まっている。 
 急いで俯いたけれど、成瀬には見られてしまっているだろう。

 こんなままで仕事に戻れるはずもなく、私は空いている手を握りしめると成瀬の胸を叩いた。

「……バカ。会社の廊下でそんなこと言うんじゃないわよ」

 素直じゃない憎々しい言い方をしたのに、成瀬は軽く笑って私を引き寄せ抱きしめる。

「本当に可愛いね、薫さん」


 その声は、驚くほど甘くて砂糖菓子よりもずっとずっと私を蕩けさせた。
 


 まずは今夜、ゆっくりと話し合おう。二人の将来のために。

 それから二人で一緒に眠ろう。

 手をつなぎ、温もりを分かち合いながら互いを確かめ合って、そしてたくさんの朝を迎えるために、想いを重ね合わせよう。


 脱ぎ捨てるのが怖かった喪女と言う名の鎧を、もう二度と着ることはない。

 きっと成瀬は私を大切にしてくれると、今はもう信じている。