(な、なんか……とんでもないことを言ったような気がする!!)

 いいや気のせいだ。あれは気のせいだ。いや、言い間違いだ。

 心の中で盛大に言い訳をしていると、成瀬は私の頭を抱き寄せた。

「今、気がついた。怜司さんに絶対に先輩を取られない方法」

「ど、どどどんな方法?」

 めちゃくちゃ動揺しまくっているのが如実だったが、成瀬は気がつかずに私の頭を自分の胸に押しつけている。

「簡単な方法だよ。俺が薫さんと結婚しちゃえばいいんだ」

「…………」

 しばらくの沈黙を置いてから、私は叫びながらのけぞった。


「はぁぁぁぁぁ!?」


 すぐにエレベーターの扉が開いたから、慌てて体を離したが、私の意識はしばらく空中を漂っていたらしい。

「先輩、下りますよ」

 成瀬に手を引かれて下りる。
 いつものフロアなのにまるで見知らぬ迷路の中にいるような感覚に陥っていた。

「そうと決まれば善は急げですね。やること一杯だ。まずは薫さんのご両親に挨拶かな」

「ちょ、まっ……」

「俺の両親は後でいいや。あの人たちはどうせ好きにしろって言うし。あと式は神前とかチャペルとか希望あります? あ、仏式でも俺構いませんよ」

「ちょ、まっ……」

「薫さんはスタイルがいいから白のウエディングドレスは絶対に着て欲しいんですけど、そこは薫さんの希望を第一に考えて――」

「ちょっと待って!!」

 ようやく声が出た。