「先輩、全く警戒心ないんですね。無防備過ぎませんか?」

 そう言われても、もうすでに心はおやじだ。
 少なくとも後輩である成瀬相手に警戒などしていない。

「警戒はしてないけど、万が一よこしまなことをしたら、即刻パンツ一丁で放り出すから。容赦しないから覚悟しておきなさい」

 それだけを告げてヒラヒラと手を振りシャワーへと向かった。


 流れるシャワーはべたついた汗も髪に絡まった雑多な匂いも流し去る。

 思い返してしまった痛い記憶も流れていけと、私は少し長めにシャワーを浴びた。


 軽く髪を乾かし部屋に戻ると、成瀬がビールをまだ飲んでいた。

 その横顔の物憂げな様子は、きっと多くの女性を虜にしてきたのだろう。

 整った顔立ちの中にある幼く見える無邪気な表情が、今はどこか遠くに思いを馳せるような憂いを帯びていて、私のおやじモードに占領されている心でさえ小さく疼いた。

「……成瀬、お先。入っていいよ」

「あ、先ぱっ――」

 顔を上げた成瀬が、笑みの途中で驚きの表情に変わる。

「?」

 何か変だっただろうか。

 ちゃんとパジャマ兼用のルームウェアを着ているし、髪も梳かしてきたから、さほどボサボサでもないはず。それなのに成瀬はじっと私を見つめて固まっている。

「なんか変?」

 気になって問いかけると、ようやく成瀬は我に返ったのか、ハッと息を呑み込んだ。