一寸の喪女にも五分の愛嬌を

「そうですか。柴崎さんの気持ちは理解しました。あなたは今のままで充分なのですね。それでもあなたを私が欲しいと願えば従って下さると、そういうことですね?」

 それは誰だって従わざるをえないことだ。

 人事として仕事をしている中で、意に沿わない異動や転勤などいくらでも見てきている。
 時にはどれほど自分が異動したくないと直訴しに来た人だっていたけれど、それでも辞令が出た以上、社員は従うべきなのだ。

 私は迷いなくコクリと頷いた。

「もちろん、従いま――」

「待って! 待って! 先輩!!」

 私を遮って部屋に飛び込んできたのは、息を切らせた成瀬だった。

「成瀬!?」

「春人!」

 有馬取締役と私の声が重なる中、成瀬はハアハアと肩で息をしながら、私たちを交互に見遣り、口を開いた。

「ちょ、待って……怜司さん。先輩を自分の秘書にって話、本気だったの!?」

「もちろんだ。私は言ったことは必ず実行する。ですから柴崎さんは、私の秘書になっていただけますね? 明日から」

(あれ!? 急に秘書を押しつけて来た! 私の意見まるで無視になってるよね!? さっきのなるほどとかの相づちと理解者っぽい物言いはなんだったのよ!)

 しかも明日からとか、最初の無茶ぶりに話が戻っている!