「柴崎さんは春人の評価通りの方なのですね」

「成瀬の……評価」

 多分、それは昨晩成瀬自身が私に言ってくれたことだろう。

 尊敬するとまで、言ってくれた成瀬の言葉が脳内に蘇り、気恥ずかしさを覚えてうつむく。

 有馬取締役は小さく息を吸い込んでから言った。

「私も少なからず人を見る目を養っていると自負しています。改めてあなたと向き合い、春人の評価は正当だと確信しています。だからこそ柴崎さんを私の秘書に欲しいと願っているのですが、この異動を受け入れてくれませんか」

 社内でも切れ者と呼ばれる有馬取締役にこうまで言われて嬉しくない社員などこのビルの中にはいないだろう。もちろん、私も掛け値なしで嬉しい。

 秘書が自分に務まるのか、そこには大いに不安がある。 

 細やかな気遣いをすることも、誰かの世話をすることにも、自分ほど向いていない人間はいないとの自覚がある。

 それに人事の仕事はとてもやりがいがあり嫌いではない。
 あの課長に少々うんざりすることもあったけれど、今となっては彼の下で働きたいと願っている。

 私はキッと顔を上げると有馬取締役の目を真っ直ぐに見つめ、それからハッキリとした口調で告げた。