「電話でも話しましたが、あなたがこのままでは居づらいとのことでしたので、思い切って配置換えを考えました」

(いや、本当に思いきってる! 思い切りすぎじゃないの!?)

 いきなり何を言い出すやら。いくらなんでも、この人事異動はありなのか?

(ありなんだろうなぁ)

 成瀬をスパイにするために福岡から呼び寄せたくらいなのだ。
 人事異動など有馬取締役の指先の采配で決定できるのだろう。

「秘書ならばこのフロアでの仕事が主になるので、柴崎さんが不快な思いをされることも少ないと思います。それと平行して今流れている噂については私が責任を持って火を消します。更に給料も引き上げします。これでいかがでしょうか? よければ明日にでも異動していただこうかと思っています」

「明日って! そんな……引き継ぎや、今やっている仕事が――」

「それは春人に任せればいい。過不足なくやってくれるはずです」

「はずって、そんな憶測で任せることはできません。会社にとっては業務がスムーズに運ぶことが第一ですよね。それならばきちんと引き継ぎを行うべきです」

 相手が取締役ということも忘れて思わず言い返してしまった。

 クスッと有馬取締役がなぜか小さく笑い、それで私はハッと我に返る。

「し、失礼しました。出過ぎたことを言いました」

 慌てて頭を下げた私に、有馬取締役は「いえ、頭を上げてください」と柔和に微笑んだ。