一寸の喪女にも五分の愛嬌を

「うん、熱はないみたいですけど、先輩、ご飯食べてないんじゃないですか? 熱の後にはちゃんと食べないと体力が戻らないですよ?」

「何をナチュラルに話をしてんのよ。私はあんたに対して怒っているし、それにさっき宗一郎に言ったことは何よ。か、彼女になってもらうとか、い、一生……なんだかんだと、よくも勝手に言い散らしてくれたわね」

 さらっと問い詰めるつもりが、ちょっと言いよどんだせいで、やけに気にしているように取られてしまいそうな言い方になったことを後悔した。


 そうだ。
 私は成瀬がスパイだったことを許していない。


 それなのに、突如現れたアホのせいでうやむやになりそうだし、成瀬が言い放ったとんでもない言葉の方が気になってしまっている。

(バカだ、自分がバカ過ぎる。今、問い詰めるのはそこじゃないのに)

 まだ額に乗せられたままの成瀬の手のひらの大きさに、思考が乱されている。

 成瀬は私をしばらく見つめた後、フッと可愛らしい笑顔を浮かべた。


 ドキンと心臓が跳ねた。

 彼の素性を知っても、気持ちは止められないものなのか。

 罠にかかってしまった憐れなウサギは、逃げることを許されない。それと同じ。

 私もあれほど警戒していたのに、気がつけば成瀬と言う後輩の罠に捕らわれている。