一寸の喪女にも五分の愛嬌を


(じゃあ、なぜ?)


 浮かび上がってくる疑問の答えを、有馬取締役は一言で告げた。

『全てを知って、あなたには社に残ってもらいたかったからです』

 たかだか一平社員を、取締役自ら引き留める意図がわからず、私は言葉が出てこない。

 まだ何か私の知らない事実が隠されているのだろう。

 けれど今はそれを知らない方がいいような気がしていて、耳を塞ぎたくなる。
 それなのに相変わらず温度を持たない声で有馬取締役は続けた。

『あなたは、春人にとって特別な人のようですね』


(私が……成瀬の特別?)


 そんなことはない。

 あいつが私に近寄ってきていたのは、裏を探るためだけだ。

 それは誤解だと言いたいのに、唇が動く命令を受け取れずに困惑する。そうしている間にも、取締役は自らのペースのまま話し続ける。

『私が言うのは身びいきに聞こえるでしょうが、春人はかなり優秀で信頼に足る男です。その春人があなたは会社にとって必要な人だと私に力説するのです。今回、私が計画したことに巻き込み、あなたを失いかねないと、それがどれほど社にとって損失なのか、春人から言われていました。だからこそ、あなたには全てをお話して事情を知った上で、残っていただきたかったのですが……』

 そこで初めて有馬取締役は言いにくそうに言葉を濁した。

 その間もずっと私は無言のままだ。