一寸の喪女にも五分の愛嬌を

「は、はい。柴崎です。先ほどは失礼いたしました」

『体調が悪く帰社されたと伺いましたが、様子はいかがですか? やはり少し無理をさせてしまったようですね』

 気遣ってくれているようでありがたいけれど、今はできれば放って置いて欲しかった。

 しかし失礼な態度も取れないので、私は当たり障りのないように返事をする。

「申し訳ありません。少し気持ちがついていかず、早退させていただきました。体調は悪くありません。ご心配をおかけしてしまいました」 

『では今、このまま少しだけ話を聞いてもらえますか?』

「……ええ、大丈夫です」

 なぜ有馬取締役が携帯の番号を知っているのか、そしてわざわさ電話までかけてくるのか、そんなことは全て頭から消え去り、ただ私は淡々とした彼の冷えた声を聞いていた。

『会議の後、あなたに個人的に今回の内情全てをお話したことの意味を知って欲しかったのです』

「意味? どういうことですか?」

『本来、今回のあらましをあなたに話す予定にはありませんでした。ただ誰から転職の話を持ちかけられたのかを聞き取りできればそれだけで充分でしたからね』

 まあ、そうだろうと、今になれば納得できる。

 私に全てを話す必要などなかったはずだ。

 稲田さんが黒幕であることも、今まで悪条件で引き抜かれた社員がいたことも、別に私が知る必要のないことだった。