一寸の喪女にも五分の愛嬌を


「成瀬が……スパイ……優秀だわ」


 フッと笑えば、一人きりの部屋に嘲笑の息が散る。


 今は誰も見ていない。

 思い切り子どものように声を上げて泣いてしまおうかと考えたが、それは実行される前に阻止された。

 なぜならスマホが着信を告げたからだ。


 見知らぬ携帯番号。


「……誰」

 よりによってこんな時に、と少々憤慨しながら指をスライドさせた。

「はい、もしもし」

 警戒した声になっているのは、きっと向こうにも伝わっているだろう。

 一拍遅れて相手の声が耳に流れ込む。


『柴崎さんですね。有馬です』


 さっき聞いたばかりのいくらか冷たい声音で相手は名乗った。

 思わずベッドの上で正座をしてしまう。

 それほど有馬取締役の声には相手を従わせるだけの威厳があった。

 それは大きすぎる責任を若いうちからしっかりと担ってきた自信に裏打ちされた人のもつものだろう。

 そんな取締役の声は、今の私の惨めさがを一層際立たせてしまった。