「実は先輩の悪い噂を流している出所も、稲田さんだったんです」

「はあ? あんた何を言っているのよ、そんなのあり得ないでしょ? だいたい、最初は総務課の子と受付の子から始まったのよ?」

 それのどこに稲田さんが関わっているというのか。
 しかしその答えは、有馬取締役から発せられた。

「受付の一人が春人同様私の親戚なんだ」

「え? あのアホそうな――ゴホゴホ。何でもありません」

 思わず素で返しそうになり、寸でのところで取り繕う。若干アウトだったような気もしたが、とにかくスルーしようと心に決める。

 隣で成瀬がぶふっと噴き出したのも気のせいにしておく。

「それで詳しく聞いて出所をたどった結果がわかったというわけです」


「そんな……ウソでしょ」


 呆然として呟きをこぼし、それからハタと気がつき思わず叫ぶ。

「え? 成瀬……親戚? え、どういうこと?」

 私の目は最大まで開かれているだろう。そんな目で見つめられて成瀬はどんな気持ちなのか、察することは私にはできない。

 ただ、決まり悪そうに口を閉ざす成瀬の代わりに、有馬取締役が事も無げに言った。

「そう、母方の従兄弟だ。そして今回の調査のために、私が送り込んだいわばスパイだ」


 告げられた事実に、私はなんのリアクションも取れないで、ただ息を詰めて成瀬を見つめていた。