一寸の喪女にも五分の愛嬌を

「柴崎さんは私の質問に答えて下さい。いつ、転職のことを切り出され、どのような言葉で誘われましたか?」

 こちらの質問にだけ答えろと、それ以外の発言はするなと、端的にそう告げられたと理解する。

(イヤな感じ。これが上のやり方なのね)

 いくらかムッとしたけれど、いちいち目くじらを立てて上に反発するのは得策ではないことぐらい常識だ。

 私は大きく深呼吸をしてから、これまでの経緯を順序立てて話した。

 噂の発生から、その後の流れ、そして最後にそんな私を心配して転職を勧めてくれたと。

 全て聞き終えた有馬取締役は、ドサッと椅子に背中を預け、しばらく難しい顔を為ていたが、やがて「ご協力ありがとうございます。柴崎さんはこれで退室してください」とさらりと言った。

「え? これで終わりですか?」

 噂の真偽を問いただされるものだと思っていた私は、意外な退室命令に眉根を寄せる。

 が、すぐに成瀬が私のそばに駆け寄った。

「先輩、もうこれ以上は何もないので、指示に従ってください」

「でも……」

「あとはまた、俺から話しますから」

 納得のいかない表情を読み取ったのか、成瀬は「後で」ともう一度ささやいて、私の背中をグイッと押す。

 これはもう、ここにいるのはプラスにならないと言われているのだろう。

 彼の意図をくみ取り、私は入室した時と同じように深々と頭を下げて退室した。