一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 入室した私を見て、サッと顔を強ばらせた成瀬だったが、彼を見ることなく私は上座に座るお歴々へと顔を向ける。

「人事課の柴崎です。突然失礼いたします」

 丁寧に頭を下げた私に、重々しい声がかけられた。

「よく来てくれた。人事課長から体調を崩してどうしても来られないと聞いていたから、心配いましたが、もう大丈夫なのですか?」

 声を掛けてくれたのは、取締役の一人。有馬怜司(ありまれいじ)という、まだ三十代後半の創業者一族の若い取締役だ。

「はい、申し訳ありません。体調は問題ありません」

 彼を見つめながら、私はそれでも柔和な笑みを浮かべてみせる。

 相手にイヤな印象を与えないために、いつもの仮面をかぶる。

 緊迫した雰囲気に胃が締め付けられる。それでも私は負けないためにここにいる。


 取り次ぎをお願いした時、秘書の社員から、今回の会議には私もあらかじめ呼ばれていたことを教えてもらっていた。

 だからあっさりと入室を許されたのだ。


 私は笑みを浮かべたまま戦闘態勢になる。

(さあ、なんでも聞いてもらってよね。噂話を全部撃破してやるわ)

 本来ならば、社員の評価や噂の真偽などについての事であれば、各課の長と人事課で処理されることが多いのに、こんな重役会議で議論されているということは、それだけよほどの噂が相当に流布されているからなのかもしれないし、もしくは人事を左右する人事課の社員ゆえに、これほどの会議になっているのかもしれない。