一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 それは想像以上にずっと情熱的で全てを奪い去るような口づけ。

 優しさよりも荒々しさが上回るのに、もっともっととねだりたくなる感覚に私は意識を奪われた。

 そのまま成瀬は私をそっとベッドに横たわらせると、ギュッと抱きしめた。 

 成瀬の重みと共に、ふわりと柔らかな香りに包まれる。

 けれどすぐに成瀬は私を戒めている腕をほどき、体を起こした。

「ごめん……先輩体調悪いのに、俺……」

 大きく息を吐き出してから、髪に手をさし込みぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

「あー、ヤバい。ほんと、ヤバい。どうしよう。ね、先輩」

 寝転がる私の顔の横に両手をつき、真上から見下ろして言った。

「先輩、俺に本気になってよ。俺、もう我慢できないかも」

 そんなことを真面目な顔をして言う成瀬に、私は熱く火照った頬を自覚しながら睨み付けた。

 こう言うしかないんだと、心を決めて告げた。

「もう男なんて信用しないって……決めている」

 最も信頼していた彼氏、宗一郎に裏切られた時に決めたこと。


 ――信頼は裏切られる。信用しない。


 ガラスが砕け散るように心が割れたあの時、私はもう男などに心寄せず、一人で生きていくことにした。

 誰にも奥深く締め切った扉をひらくことはないと、そう決めたのだ。