一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 そう思っていたのに、早川さんに踏みにじられた私の唇。

 宗一郎の聞きたくもない言葉。

 どれもこれもが不愉快で、こんな甘い言葉を告げてくる成瀬に慰めて欲しくなってしまう。


「困る……」

「困らない。俺、先輩のこと好きなんだ」

「そんなこと、誰にでも言うでしょ」

「言わない。先輩だけ。信じてよ」

「信じられない」

 頑なな私を、ゆっくりとほぐすように成瀬は静かに言葉を紡ぐ。

 そっと髪を撫で下ろす成瀬の手の心地よさに、つい流されてしまいそうになる。


「先輩の風邪、俺がもらう。だから……キスしてもいい?」


 トクン、と成瀬の心音が大きく耳に響いた。

 その音にシンクロするように、私の鼓動も速度を増す。


 ――「バッカじゃない!?」


 いつものように可愛げなく突っぱねて、身ぐるみ剥いで放り出すぞと罵ればいいのに、フリーズしたまま機能を停止したパソコンのように、私は身動きできずにいた。

「ね、いい? 拒否しないと、もらうよ? 先輩の唇」

 私の肩をつかんだ成瀬が、ゆるりと体を起こしてこちらを覗き込むように見つめる。

 一瞬、彼の顔を見てしまい後悔する。


(ああ……やっぱり目が離せない)


 カッコイイのに可愛さを含む成瀬の瞳。今、その瞳がなんとも言えない色をまとっている。