「…………きらい」
長い空白の後、驚くほど小さな声しか出てこなかった。
成瀬はうつむいたまま口を閉ざした私の手をグイッと引き寄せた。
「ウソでしょ? 先輩」
耳元でささやかれた。
私は成瀬の胸の中に捕らわれている。
拒絶するつもりなのに体に力が入らない。
女の扱いに慣れている成瀬。こいつの手管になんか絶対に引っかからないと警戒していたのに、どうしてだろう。
今は彼のささやきに、素直に頷いてしまいたくなる。
熱のせいで火照る体が悪いんだ。
心地良い成瀬の腕の中が悪いんだよ、きっと。
なけなしの力を振り絞り、私は喉の奥から声を押し出した。
「風邪……うつるから、離れて」
「先輩の風邪なら、いくらでももらう。先輩が苦しむなら、俺が代わりに苦しい方がいい」
成瀬の言葉に思わずジワリと涙が浮かびそうになる。
どうしてこいつは私の心の弱いところに踏み込んでくるのか。
宗一郎と別れてから、もう二度と男になど心を開かないと固く誓った。
裏切られる苦しさより、一生一人で生きていく方がずっと楽だと思っていた。
だから私はスマホゲームの中でだけ、ちやほやされて楽しめたらそれでいい。

