一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 成瀬に見つめられて恥ずかしいと思うのに、なぜか安心感を抱いている自分がいる。

 側にいるのがこの人でよかったと、そう思っているのは事実だ。

 はあああ、と大きな溜息の後、成瀬はいくらか低い声で言った。

「気がつかないなんて、俺、自分が情けない」

「なんで成瀬がそんなこと思うのよ。薬が効いていたから誰も気づいてないはず。気づいたとしたら逆にスゴイわ」

 でも、成瀬は唇を少し噛みしめる。

 座っている私の手に、自分の手のひらを重ねるから、ドキンと胸が弾んでしまい、内心で戒める。

(もう成瀬とは関係なくなるんだから、これ以上心を揺らしたくないの)

「手も熱い。先輩、気分は? 寝ててよ」

 言いながら成瀬は手をキュッと握りしめた。

「……手、やめてよ」

 強く拒絶するつもりだったのに、弱々しい声しか出てこず、ポツリと自分の膝に落ちた。 

 けれど成瀬はそんな小さな声も見逃さない。

 更に手に力を込めて私の手を包み込み、私を真っ直ぐに見つめてきた。


「先輩、俺のこと、嫌い?」


 小首を傾げて可愛く、なんてことはない。

 真っ直ぐに、ただ深刻そうな表情のまま。

 冗談では流せない聞き方に、私の心は乱される。