一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 成瀬が来ないかもしれないと考えながら、心の奥では期待していた自分に気がつく。


 約束をした以上、成瀬ならきっと来る……来てくれると。


 のそりと起き上がり、軽く髪を整える。

 きちんと今後の身の振り方を彼に話すために動かなければと、鈍い重みを感じる体をむち打つ。


 そう、「さよなら」をするためにだ。


 私の中で、転職はもう決定事項になっている。

 それをきちんと告げるために、私はベッドを降りて玄関を開けた。

 ガチャリと扉を開けば、いつものように笑みを浮かべた成瀬が立っている。

「先輩、こんばんは」 

 手にした紙袋をちょっと掲げて見せる彼の姿に、私はフッと目を閉じると、そのまま彼の胸に倒れ込んだ。

 バサッと紙袋が成瀬の足下に落ちた音が聞こえた。

「せ、先輩!?」

 肩を抱きしめる成瀬の腕を感じながら、私は体重を預けきった。


 成瀬が戸惑っているのもわかっている。

 自分が情けないのも自覚している。

 けれど、私はただ成瀬の胸に全てを預けるしかなかったのだ。