一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 気まずい空気が場を支配する。

 昨日の今日だ。話すこともないし会いたくもないのに、なぜ申し合わせたようにこんな場所で会ってしまうのか。

 自分のタイミングの悪さに愕然としてしまう。

「柴崎さん、ちょっといいかな」

「いえ、失礼します」

 俯き加減で足早に早川さんの横をすり抜ける。

 しかし腕をがっちりとつかまれてしまい、逃げ切ることはできなかった。

「待って。話を聞いて欲しいんだ」

「困ります。放してください」

「昨日はいきなり悪かったと思ってる。でも俺の気持ちは伝えた通りだから」

 私を戒める彼の腕を振りほどいてしまいたいのに、風邪のせいで気分が悪くて力が入らない。

(早く薬を飲んでおけばよかった)

 そんな後悔しているふりして、本当は怖かった。

 強引で話を聞いてくれず、距離を詰めてくる早川さんの態度が怖くて、内心では震えている。けれどそれを見せるほど私は可愛い女じゃない。

 ――男に守られる女にはならない。

 二年前に強く強く誓った言葉を胸に、早川さんをキツく睨み付ける。

「放してください。私はお断りしました」

「でも、俺は君のことが――」

 早川さんが言い募ろうと勢い込んだ時、背後から声がかけられた。