一寸の喪女にも五分の愛嬌を



 ――で?


 眠っているままのこいつ、どうしたらいいの?


「俺、やっぱ送りますから」と強引にタクシーに乗り込み、勝手についてきたくせに。

 今頃受付嬢から呪いの儀式でもされているかもしれないほど彼女たちの瞳には憎悪の炎が揺らめいていたのに、勝手にタクシーを拾いついてきたくせに、この有り様だ。

 で、眠っている成瀬を、私はどうしたらいいのだろう?

 タクシーの運転手は当然のように二人が降りると思っている。
 私が先に乗り込んだから、こいつが降りなければ身動きとれない。

「ちょっと、成瀬君、起きて! このまま乗っていくの?」

「お客さん、彼氏さん、降ろすの手伝いますよ」

「いえ、彼氏じゃな――」

 私の言葉など聞かずに運転手は素早く後部座席の方へ回り込むや、成瀬の肩に体を押し込み、無理矢理に歩道の植え込みの側に下ろした。

「では、失礼します」

 言い残してあっという間にタクシーは走り去ってしまった。

(やられた!)

 運転手は、面倒くさそうな酔っ払いをなんとしてもここで降ろす! と決意しての行動だったのだろう。あの早業に私は抵抗もできないまま成瀬と残されてしまった。


「ちょ……こいつ、どうすればいいのよ!!」


 走り去ったタクシーに思いよ届けと叫びたい。深夜の住宅地でなければ。