一寸の喪女にも五分の愛嬌を

 若くて美人の受付嬢と、お局間近の先輩社員ならば、どちらに成瀬がなびくかなど一目瞭然だ。

(よし、頑張れ、えっと、マキちゃん! いや、ミキちゃんだったかな?)

 まあどっちでもいいから、確実に成瀬を物にしてくれよ、と願いながらコップのビールをおっさんのように煽る。

 喉を通り過ぎる爽快さとともに広がる苦みに満足して私はしばらく山際と成瀬と談笑を続けた。

 成瀬はさすがの営業畑上がり。
 話題選びも的確で軽妙な話し口調で面白おかしく自分の経験を語ってくれる。

 いつの間にか私も楽しい気分になり、お互いにお酒を飲み進めてしまった。


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 それから一時間後の今、なぜか私の隣に成瀬がいる。



 軽快に走行中のタクシーの中。

 窓を流れていく街路の灯りが綺麗だ。
 

 まもなく私の住むマンションが見えてくるが、なぜか隣で成瀬が健やかに眠っている。

 眠っている時も成瀬は見惚れるほどイケメンだが、そのイケメンの隣に座る私の眉間には深いしわが刻まれている。

(おまえぇぇぇ!! 起きやがれ!)

 さっきからグイグイ押したりしているのに、成瀬は我関せずで私にもたれて眠っている。

 なんだよ、おまえ! と思いながらも運転手に指示を出す。


「すみません、そこの信号を渡ったところで止めてください」

「はい、わかりました」


 信号を越えてすぐにタクシーは止まる。