再び、意識を取り戻した達也は、すぐに行動を開始した。
そこが、やはり2001年であることを確認し、自分のいる場所を知ると、埼玉県南部にある吉本親子の家を目指した。
当然スマホのGPSナビは使えなかったため、地図を片手にその場所を探しながら彼は、わずか15年でとても便利になったことを痛感した。
彼がその町に到着したころ、あたりは日が沈みかけ、夕暮れに赤く染まる景色の中に公園を見つけた。
そして、その片隅で一人で佇む少年を見かけた。
その小学生ぐらいの男の子は遊んでいる他の子供たちと離れて、何かをしているようだったが、達也の位置からは彼が何をしているのかを目視することはできなかった。
やがて立ち上がった男の子は公園の外へと歩き出した。
その手には黒いビニール袋がある。そのサッカーボールほどの大きさの袋を持って、彼は一軒の家に入っていった。

その表札には「吉本」

住所も彼が調べてあったものに違いなかった。

「あの少年が吉本健人?」

達也が用心しながら、家の周りを観察していると、さっきの少年がリビングの窓を開けて庭に降りてきた。
しゃがみこんで、その小さな背中を達也の方に向ける健人のほうから不気味な音が聞こえてくる。

ぶちっ…ぶちっ…ぶちっ…

(何をしているんだ?)
不審に思う達也が覗いていることに気付かないまま、しばらく、そこで何かを行っていた彼は、やがて全ての作業を終えたのか、再び家の中へと戻っていった。

健人はいったい何をしていたのだろう?
あの公園から運んだビニール袋の中身はいったい?
そんなことを考えていた達也の耳に小さな女の子の声が聞こえた。

(まずい!誰か来る!)
慌ててその場を離れ、身を隠した達也は「吉本家」に入っていく親子を見た。
おそらく殺された吉本真奈美と娘の彩奈だろう。

達也が確認した、その日の日付は2001年9月8日。
事件は4日後の深夜から早朝にかけて起こった。
それまで、この2001年にとどまっていられるだろうか?

その夜はとりあえず、近くのビジネスホテルに宿をとった彼は疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。
翌朝、目を覚ました彼は一瞬慌てたが、そこは同じホテルの一室で、念のため確認した日付も2001年9月9日であることに、ほっと胸を撫で下ろした。