また、部屋に誰かがいた

病室に戻ると疲れてしまったのか香織はすぐ横になり眠りについた。
P15はそんな香織のそばで静かに佇んでいた。
モニターの数値は正常。窓の外では未だ雪が舞っていた。

「ねぇ…ピーくん…」

夜になって、目を覚ました香織は隣にいるP15に話しかけていた。

「アタシね…お父さんもお母さんも、麻衣も優里奈も…そして道原君も…みんな好きなんだぁ」

「………」

「あ!ピーくんも大好きだよ!」

「………」

「だからね…みんなの涙は見たくないんだぁ…」

「………」

「最後まで明るくて、元気で、バカやってる香織でいたいの…」

「………」

「みんなの心にね…そんなアタシが残りたいの…」

「………」

「アタシのこと…ずっと…覚えていてくれるかな…」

香織の声はいつしか涙声になっていた。

「アタシのこと…忘れずにいてくれるかな…」

「………」

「忘れちゃったら…いやだな…」

そんな香織にP15の機械音声が優しく病室に響いた。

「カオリサンノ・メモリー・ホゾンシマシタ」


「ピーくん…」

「タクサン・ホゾンシマシタ」

「ピーくんは優しいんだね…」

「………」

「ピーくん…アタシ…怖いよ…」

「………」

「怖いよ…怖いよ…死にたくないよ…」

「………」

全ての音が外の雪にかき消されたかのように静まり返った病室の中はベッドの上の香織と、一台のロボット。
それは二人の穏やかな、温かい空間だった。