それは嘘から始まる。

「早く帰りたいんだけど。あたし再放送のドラマ見てるから」
「ちーちゃん、そのドラマの録画予約してなかった?」
「リアルタイムでも見たいんだろ、千恵は。あ、でも再放送だからリアルタイムでもないか」
「だから早く帰るよ。時雨も見たいでしょ」
「す、少しは見たいかも」

 時雨は別にそのドラマを見ているわけではない。しかし話を合わせる為に、小さく頷く。

「時雨、行こ」

 時雨の手を取る千恵は、男二人をその場に置いてさっさと歩き始めた。一緒に帰ると言ったわりには薄情である。

「ちょっ……、ち―ちゃんっ!」
「千恵は歩くの速いな。時雨ちゃん転けそうだし」
「感心してる場合か」

 優は晴樹を置いて走っていく。小さくなる優に、晴樹は笑みを浮かべた。「ゆうたん早いわー」と。そして晴樹も三人の後を追った。
 四人は校門を抜け、二人づつ並んで歩いている。前方は優に時雨、後方は晴樹に千恵といった具合に。

「天地さんの好きな食べ物は?」
「え? うーん……、玉子焼き、かな。甘いのも甘辛いのも好きだよ。あとは、いろいろ?」
「そうなんだ。俺も好きだよ、玉子焼き。おいしいよね」
「うん」

 へらりと笑う時雨の頭を優が撫でた。時雨は「西名くん?」と目を丸める。

「あ……、えっと……、ごめんっ! なんか、無意識に手が伸びて……っ」

 そう慌てて繕う優に、後方の二人は口端を上げていた。面白そうに。

「やだ、ゆうたん。大胆ー」
「本当本当。ゆうちゃん、手が早ーい」
「ちょっ……、手が早いって意味が違うだろ! あ、天地さん……あの、ごめんね?」

 恐る恐る声をかけられた時雨の顔は一瞬で朱に染まる。

「だ、大丈夫だから! その……あんまり、こういうことに慣れてなくて……、わたしの方こそごめんなさい」

 小さく頭を下げた時雨は、バツが悪そうに三人から視線を逸らした。耳まで赤く染められた横顔が、茜に染められる光に照らされる。

「いや、気にしてないよ」

 帰ろうかと優しく笑む優に、時雨も小さく笑い返した。
 ふたたび歩き始めれば、交差点で二手に別れる。ひとつはマンションに帰り、ひとつは一軒家に帰るのだ。マンション組は優と千恵で、一軒家組は晴樹と時雨だ。