それは嘘から始まる。

「やった。ありがとう。――って、そうじゃなくて! ゆうちゃんが昨日なんて言ってたか、思い出してみて」
「なんて言ってたか……?」

 ノリツッコミをしたあとの千恵の言葉に、優の言葉を頭の中で反芻する。

『そっか。ありがとう。すごく嬉しい』

 そう言っていた優。とても嬉しげな顔をして。

「すごく嬉しいって言ってたけど」
「うんうん。他には?」
「他は――……」

 促されるままに考えて、時雨ははたと気づく。これは千恵が誘導をしていると。

「千恵ちゃん。わたしを誘導しても意味ないからね」
「えぇー、時雨のケチー」

 呆れる時雨に千恵は唇を尖らせる。と同時に、担任が「席に着けー」と放ちながらドアを開けた。

「ケチじゃないし」

 そう小さく返した時雨に、千恵は「はいはい」とでも言うように後ろ手に小さく手を振った。


◇◆◇◆◇◆


「時雨お昼行こう」

 いつものように何事もなくHRも午前中の授業も終わり、時雨は促されるままランチバッグと水筒を抱えながら千恵の後を追う。天気がよい日は中庭などでお昼を食べているが、今日は中庭ではないところに向かっているようだ。
 立ち止まった千恵の背中を眺めて、視線を逸らした先。あるのはよく知る場所である。

「え、ここって……」
「そ。第二音楽室。ここ日当たり抜群らしいんだよね。しかもカギは開いてるから、いつでも入れるし。まぁ、準備室の方はカギがかかってるけど」

 そう言いながら千恵は我が物顔でドアを開けた。彼女の言う通り、やはりカギは開いているようだ。

「待たせちゃった?」
「大丈夫。俺たちもいま来たところだから」

 その声に時雨は、千恵の背中越しに中を覗く。刹那、目を丸くさせた。そこには優と優の友人がいたのだ。

「西名くんと北河くんっ!? なんでここにっ!?」
「ちーちゃんから『一緒にお昼どう?』ってメールきたんだ。お言葉に甘えてみたんだけど、天地さんは嫌だった?」
「まさか! 嫌じゃないよっ!」

 大きく頭を振る時雨に、優はほっとしたように小さく笑った。

「ならよかった。時間がなくなる前に早く食べよう? 晴樹《はるき》はちーちゃんの隣でいい?」