それは嘘から始まる。

「俺だって、天地さんを騙してたよ。むしろ、俺が初めに天地さんを騙したんだ。復讐だとかなんだで、天地さんに辛い思いをさせたでしょ?」

 「お互い様だから」と涙の向こうで笑う気配がした。溜まる涙のお蔭で滲む優が頭を撫でてきた。そうしてまた小さく笑みをこぼす。

「俺はね、天地さんに似合うようにって頑張ったんだ。苦手な牛乳も飲んだし、面倒くさい運動もたくさんした。頭の出来もよくないから、勉強も頑張った。数字はいまも嫌いだけど、それなりには出来るようになったよ。――全部が全部、天地さんだから頑張れたんだ」

 それは解ってほしい、と懇願するように放つ声は震えている。

「……わたし、でいいの……?」

 西名くんは、わたしでいいの?
 嗚咽を漏らしながらの声に、優は緩めた腕に力をこめる。

「いいよ。俺は天地さんがいい。誰よりも、天地さんといたい。――天地さんも、俺でいいの?」
「うん……。西名くんがいい。わたしも、西名くんと、いたい……。北河くんに頭を撫でられたときに、西名くんとは違うって解ったから。わたしは……西名くんが好きかもしれないって、思っちゃったんだ。……恋愛経験とか、そんなにないんだけど……」

 自身の制服の袖で涙を拭いながら放つ時雨の言葉に、背中から片手を離して相槌をうちながら頭を撫でていた優は、もう一度微笑んだ。

「俺も、恋愛経験あんまりないよ。中学時代はチビだったから、彼女はいなかったしね」
「う、嘘っ!? だって、西名くん、小さくて可愛かったよ!?」
「マスコット的な扱いだったんだ。いまだって、告白はされるけどそれ以上はないし、たぶん『王子』ってことで近寄りがたいんじゃないかな。俺は天地さんといられるから、それはそれでいいんだけど」

 苦笑いをする優は思い出したように放った。

「そういえば、晴樹になにか言われた?」
「特にはなにも言われてないけど――……あ、『こんなこと、明日で終わりにしなよ』って言って、た……あれ?」

 その言い方に引っかかりを覚えた時雨は、優を見据えた。

「知ってるよ。晴樹も。協力してもらったから」

 だからだ、と納得する。だから晴樹は、何度も助言をしてきたのだと。