それは嘘から始まる。

「ちーちゃんからメールがあったんだ。天地さんが話したいことがあるって」

 送ったメールはそういう内容だったらしい。千恵は用意周到だ。

「話って、なにかな?」
「うん……。あのね」

 イスから立ち上がり、優に向き直る。少し顔を上げた時雨の瞳には、微笑む優が映った。
 好きだなんて嘘。――復讐の為の出任せだったにすぎない。
 あのときは。

「別れてほしいの。西名くんが、千恵ちゃんを振ったから」
「いいよ。別れても」

 「千恵ちゃんを泣かしたから。だから別れて」と紡ぐ時雨にあっさりと承諾した優は、時雨の手首を掴んだ。

「――これは『復讐』だから。成功しないと意味がない」

 形作る優の唇に時雨の視線は釘づけになる。

「言ってたでしょ? ちーちゃんが。俺が知ってるってことを」
「……言ってた……。知ってるよって……。……どういうこと?」

 優は空いている片手で時雨の横髪を梳いた。優しく。

「そのままの意味だよ。初めから知ってたんだ。というよりもね」

 ふたたび髪を梳く優は、顔を綻ばせる。

「俺がちーちゃんに頼んだから」
「た、頼むって? なにを?」
「突然ですが、抱きしめてもいいですか?」
「え? あ、えっと、はい……」

 なんの脈絡もない言葉に思わず頷いてしまい、時雨は優の腕のなかに収まった。

「話の続きだけど――」

 優の話を聞くに、彼は千恵に『振られたことにしてほしい』と頼み込んだらしい。千恵は千恵で、好きな俳優が出ている映画の特典つき前売り券で手を打ったという。
 そして千恵は時雨の前で演技をした。友達想いの時雨なら、優になんらかのアクションをすると踏んで。
 時雨はまんまとはめられたのだ。ふたりの手によって。

「え、と……なんで、そんなこと……?」

 話を整理した時雨だが、いっぱいいっぱいである。

「好きだから。天地さんが」

 囁かれるように言われて、時雨の顔に熱が集まる。

「なんで……わたし、なの?」

 優の腕から逃れるように躯を捩る時雨は、優を見上げた。優は優で笑みをこぼしながら、背中に回した腕を緩めて、時雨に隙を与える。

「天地さんだから」
「解んないよ……。だって西名くんは……『王子』だよ?」