それは嘘から始まる。

 「こんなこと、明日で終わりにしなよ」と言って。


◇◆◇◆◇◆


 翌日。時雨の目は少し腫れていた。
 千恵はそれに気づいていたが、なにも言わずに昼を迎える。今日は四人ではなく、教室のなかで向い合わせに昼食を摂っている。

「ねぇ、時雨」
「なに?」
「放課後、話があるんだけどいい?」
「いいよ」

 了解を得た千恵はポケットから携帯を取り出した。どこかにメールを打っているのか、ボタンを押す音が小さく聞こえる。

「よし、完了ー」

 携帯をポケットへと戻した千恵は時雨を一瞥して残りを食べ始めた。
 ――午後の授業も終え、放課後を迎えたいま、教室には千恵と時雨しかいない。千恵は壁に凭れながら、徐に口を開いた。

「晴樹から聞いたよ。時雨は、好きなんでしょ? ゆうちゃんのこと」
「……うん。好きかもしれないって、解った」

 昨日の帰りに、この気持ちはたぶんそうだと気づきはした。そして隣にいた晴樹に言ってみた。

『北河くん、わたしはね……わたし……』

 西名くんのことが、好きかもしれない。
 そう紡いだ時雨に、晴樹は目を細めながら放った。

『時雨ちゃんがそう思うなら、そうなんじゃないの?』

 その言葉に時雨は小さく頷いたのだ。『……うん……』という消え入りそうな声とともに。

「好きかもしれないけど、でも、西名くんを振らないと……。千恵ちゃんと約束したから。それも今日で終わらせるけど、いいかな?」

 これ以上は辛いから。そう漏らした時雨に、千恵は笑う。

「全然いいよ。一ヶ月とちょっとか。ゆうちゃんは辛かっただろうなぁ」
「どういう意味?」

 時雨は緩く首を傾げた。今度は小さく笑った千恵は、時雨の頭を柔く小突く。

「ゆうちゃんは――」
「天地さん、遅くなってごめんね」

 千恵の声に目を見張り、優の声に視線を遣る。

「時雨、頑張ってね」

 千恵は壁から離れて小さく手を振った。そうして教室から出ていく。荷物を置いたままに。

『ゆうちゃんは、知ってるんだよ』

 なにを、と問う前に千恵は去ってしまった。
 近づいてくる優は、時雨を見つめたままだ。

「天地さん」
「西名くん……」