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「なあ、お前、今年は投票どうするんだ?」
「え?」
ドキッ――
同僚の問いかけに、目を丸くして戸惑ってしまう俺がそこにいた。
『目が泳いでいる』という言葉は、今のこの俺の状態を指すんだと、辞書にすぐさま書き足したいぐらいだ。
「どうせ、いつも通りに投票するんだろう?」
「う、うん……まあ…………」
「いいよな~、俺はお前の押しメンのほうがほんとは好きなんだけど、いまさら浮気できないしな~」
「ハハッ……何言ってんだよ。俺から見れば、君の押しメンのほうが、絶対綺麗で魅力的だと思うけどな」
「え~、そうかな~?」
「そうだよ。ほら、そう言うのって…………」
隣の芝生は青い――――
俺は喉まで出かかったその言葉を、丸のみするように、グッと飲み込んだ。
理由はいたって簡単。
まさにその通りだなと、ふと思ってしまったからだ。
そう。
実は最近の俺は迷っていた。
なぜなら、長年大好きだった押しメンに、魅力を感じなくなっていたから。
それが理由だ。
ただ、今さら、押しメンを変える勇気もない。
今まで投資してきたことが、全く無駄になってしまう。
押しメンを変えるということは、注いできた俺の愛がゼロになり、いったんリセットされるということ。
そこだ。
そこの一歩を、まだ俺は踏み出せないでいた。
「で、どうなんだ?いつもと同じように投票するんだろ?」
「うん、まあ…………そうなるかな」
だから、だからだ。
俺はモヤモヤした気持ちを抱えながらも、押しメンを変えることなく、選挙当日を迎えることになった。

