私が藤井をやめるまで


手紙は最後に


"是非一度貴女にお会いしてみたいです。"


という一文で締めくくられていた。


自分の半分しか生きていない人間にこんなにも興味を持ってくれることが嬉しくて私は藤井さんに会いに行こうと決めた。

もし藤井さんの家が遠かったら今はないかもしれない。

差出人の住所は都内で私の家からなら30分もあればつける距離だった。



手紙を受け取った翌日、私はめいっぱいのお洒落をしてカメラを片手に家を出た。

家の玄関から藤井さんの家に着くまでに何枚も写真を撮った。


ただの散歩道。



道端のつくし

花が散って青々とした桜の木






電車


春の終わりを告げる景色を何枚も何枚も。



藤井さんが最後に外の景色を見たのはいつだろう?まだこの景色は見てないかな?



何故か28年間で一番ウキウキしていたかもしれない。


小学校の遠足とどっちがワクワクしてたかな?



手紙の差出人の住所を辿って行き着いた先には漫画みたいな大きなお屋敷が立っていた。


それを見た時お屋敷という言葉が多分一番しっくりくる言葉だと思った。



確かに表札は藤井だった。


「えぇ…」

唖然としてただ屋根の先を見上げるしかできない私の背中から女性の声がした。


「この家に何か用ですか?」


振り返るとまだ10代にも見えるような幼さの残る少女が不審そうに私のことを見ている。


「写真…撮ってもいいですよ。」

少女は私のカメラを見て呟いた。


「あ、いや…そうじゃないんですけど…」

そうだよな。家族がいることも考えずに連絡なしに私は何やってるんだろう。

そう思って踵を返そうとした時に少女の手に抱えられた本が目に入った。

「あ…それ…」



少女が私の目線を追うように自分の手元に目をやると表情がすっと明るくなった。