私が藤井をやめるまで



28にもなって恋人も作らず仕事をしていた私に突然の手紙が届いた。



私の仕事は写真を撮ることだった。

ファンレターと言うのだろうか。


私の写真が好きだと言ってくれる人は少なくなかったけどその手紙は少し違った。


脚を悪くしていて車椅子で生活をしているその男性は母の一つ年下だった。


もう60近くなって外に出ることすら億劫になっていた彼は登山が好きだった。


悩み事やなにか嫌なことがあった時は高い山に登ってその上からちっぽけな街を見下ろして


その度に景色に元気をもらって


陽の光を浴びて

風を感じて。


彼の文章を見るだけで私は酸素が薄くなるくらい高い山に登っている気持ちになった。


あまり外に出られない彼は私の写真で旅をしていると書かれていた。


差出人は藤井博雄。

博雄と書いてひろたかと読むのは当時では珍しい名前だ。


私と藤井さんは初めて会ったその日に結婚を決めた。