「お前さ、何のために生きてんの?」
ふいにAが痛みに丸まった僕へ、問いかけてきた。
何のため…?
「ぼ、僕は…」
この前出会った、何よりもきれいな女の子が脳裏に蘇ってきた。
無邪気に笑い、そしてまっすぐに僕の目を見てくれた。
それが何よりうれしかったのだ。
彼女が僕のことを知っている、肯定してくれる…ただそれだけで。
「僕は―――」
―――沖名るかのために生きている。
そう答えようとした言葉は、
僕の頭へ降ってきた足で顔を思いっきり蹴られたことによる衝撃で消えていった。
「ぐ、ぅぅ…ッつ」
三人のゲスな笑い声が、あたりに響き渡った。
あまりにも理不尽である。
「お前ひでーな!今なんか言おうとしてただろ~」
「あらそうなの?ゴミかと思って蹴っちゃった☆」
「ま、お前に生きる意味なんてねーわな」
うずくまる僕の髪を掴み、強引に引き揚げる。
頭皮が限界まで引っ張られ、激痛がした。
「お前が死んだところで、ママ以外悲しんでくれる人なんていねーよ」
「いえてるわ~」
「う、ぐ…」
口の中に鉄の味、そして新たに鼻血も出ているのだろう…鼻の辺りが生暖かい液体で濡れていた。
さぞかし不細工な顔をしているのだろうな。
「ってことで、死んでみる?」
「鉛筆忘れたから、鉛筆貸して?」みたいに、
何の変哲もない会話のように寄越された言葉は、痛みに悶える僕には理解できなかった。
何と言ったのだ?死…?
聞こえてきた文章を反芻してみても、理解はできなかった。
何を言っているのだろう?
「はーい、立って~」
掴まれた髪をそのまま引っ張られ、痛みに立たざるを得なくなる。
フラフラと立ち上がり、フェンスへともたれた。
カシャンッとフェンスが僕の重みを受けて軋む。
「そのまま、フェンスの向こう側に行って飛べば、簡単に死ねるぜ?」
「そこから飛び降りれば、お前はヒーローだよ。みんなの心の中にお前の名前が刻まれて、忘れられることはなくなる。いいねぇ」
「誰も悲しまねぇけどなぁ」
ぎゃはー、それは可哀想~。なんて訳の分からない会話。
「どうせ葬式には、学年全員が強制参列だし、葬式には行ってやるよ」
「あー、そういえばそうだったな。去年の今頃だったっけか?」
「そーそー。本当迷惑だったよ。知らねー奴だったし」
奴らの会話で、ふと思い出す。
僕らがまだ高校1年の時、つまり去年の今頃。
学校中に衝撃を与えた事件が起こった。
そのことを、僕は鮮明に思い出すことが出来た。
「そんなことはどーでもいいとして」
逡巡していると、Bに腹を蹴られた。
「早く飛べよ」
奴らは僕に、フェンスに上り、飛び降りろと言っているのか。
冗談だろう。
「い、いや―――ッぎゃ!!」
今度はCに頬を二回殴られる。
ぽたぽたと床に、制服に、滴り落ちる血液が染みていく。
痛い…痛い。
「早く」
従うしかないのか。
飛ぶしか、ないのか。
僕は恐る恐るフェンスに手をかける。
手は小刻みに震え、僕が死ぬことに対して恐怖しているのだと感じた。
三人が笑いながら冷やかす。
僕の死など、何でもないことのように。
ああ、悔しい…苦しい…怖い、怖い。
ぎゅっと目をつむり、フェンスに乗り上げたときだ。
「もうやめてあげれば?」
風に乗って、歌うような声が奴らの冷やかしを止めた。
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