日が落ちてから向かう学校は独特の不気味さがある。
いつもは生徒たちのにぎやかな声や活気であふれているから、
しん、と静かだとより静寂が増すからかもしれない。
校門を抜け、裏庭へ足を進めた。
途中、軽やかにステップを踏み、スキップしたりもした。
どれだけ浮かれているのだ、俺は。
校舎裏…いつもの場所。
そこには校舎の壁にもたれて、イヤホンで音楽を聞く、華奢な女生徒の姿があった。
薄暗い周囲の中では、彼女の白さが際立つ。
彼女はこちらの到着には気が付いていないようだ。
俺は努めて大きな声で言う。
「るか」
彼女のことを示す、清い二文字を。
すると、彼女の伏せられていた大きな瞳が、
すっとこちらへ向けられ、細められた。
「待ってた」
イヤホンを耳から外し、ミュージックプレイヤーに巻き付けながら、こちらへと寄ってくる。
綺麗に整えられた黒髪が揺れていた。
「うわ、タバコくさっ」
俺の前に立った瞬間、るかが自分の鼻をつまみ、顔をしかめる。
俺は慌てて制服の匂いを嗅いだ。
確かにタバコと酒が混ざったひどいにおいだ。
香水でもしてくれば良かった、と後悔した。
「学校にも来ないで何してたのよ、悪い人ね」
ふふ、と笑って見せる。
何よりも美しいその笑顔。
「うるせーな。俺の勝手だろ。…ほら、これ」
その笑顔を前にすると鼓動が乱れて仕方がない。
俺は目を反らし、カバンからポリ袋を取り出して、るかへ差し出した。
彼女の細くて、繊細な手がそれを受け取る。
「ありがとう、一条くん」
その目は既に、俺ではなくそのポリ袋に向けられていて。
俺はそのことがとても残念に感じられ、
そして同時に「こちらを見てほしい」という独占欲も感じた。
だから、衝動的に俺は。
「―――るか」
「なに―――ッ!?」
「そんなもんに夢中になってねぇで、俺を見ろよ」
校舎の壁へ彼女を押し付け、俺よりも数センチ小さい彼女を見下ろした。
両腕を壁につけ、彼女を囲う。
大きな瞳いっぱいに、俺の金髪が映っていた。
「今は俺といるんだからよ」
よほど必死な顔をしていたのだろうか?
「あははは、何その顔!」
るかが体を丸めて笑い出す。
その拍子に、彼女のもとから柔らかなシャンプーの香りがして、くらくらとした。
「何度だって見てあげるよ、我儘なおバカさん」
クラブで俺にキスしてきた女なんかとは全然違う。
この世の何よりも美しく清らかで純粋な存在。
汚れた世界に住む俺の、唯一無二の美しいもの。
彼女の小さな手のひらが、俺の頬に触れた。
「何して欲しいの?」
いじわるな唇が笑っていた。
それが欲しかった。
「―――キス、しろよ…俺と」
「ふふ、ほら、かがんで―――…」
少しひざを折れば、彼女の真っ赤な唇が俺のそれへと押し付けられ、
俺は今までに感じたことがないほどのエクスタシーを覚えた。
オナニーなんかよりも刺激的。
俺は彼女の黒髪に触れ、引き寄せる。
彼女のほうも、俺の金髪に優しく触れた。
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