クラブから出ると、空は夕暮れだった。

茜色が紺色に染まろうとしていたところだった。

ようやく吸えた新鮮な空気―――ここは夜の街なので酒の匂いはひどかったが、クラブの中よりは随分と楽だった―――を胸いっぱいにため込み、吐き出した。

少しだけ、頭痛が収まった気がした。

すると、カバンの中に仕舞ってあったケータイが震える。

画面を確認すると、いつも脳内に鎮座する存在からの着信だった。

すぐさま通話ボタンを押すと、

「出るの早い」と鈴のような声が聞こえてきて、顔がにやけた。

「どうした」

簡潔に聞く。

『べつに…深い意味はないわ。今日も学校来なかったね。不良め』

受話器の向こうで意地悪く笑っている姿が浮かぶ。

「うるせーよ。今から会えるか?渡したいもんがある」

先ほどオーナーからもらったアルモノを思い出し、電話の向こう側に問いかける。

『どこに行けばいいの?』

いたって普通の声音で、向こう側が反応する。

「お前今学校だろ?」

今は午後6時過ぎ。生徒会役員であるそいつは、まだ学校にいるはずだ。

『さっき会議が終わってね、今から帰るとこよ』

「いつもの校舎裏で待ってろ。すぐ行くから」

『慌てなくても待っててあげるわ』

じゃあ、と電話は一方的に切られる。

まったく釣れない女だ―――…。





だが、俺の足は速く会いたくて走り出すのだ。